2021/03/05 12:48
2018年の初めごろ、私は3ヵ月ほどかけてインド1周の旅に出ていました。その時期のインドはうだるような乾季。
この記事は直接的にショップと関係するものではありませんが、店主はインドの石が好きで、ふと北インドでのことを徒然に書いてみたいと思いました。
クリスタルの産地として有名なクル渓谷やパールバティ、マニハール、マニカランなどは残念ながらこの旅では行かなかったのですが、そのすぐ傍のエリアには滞在していたので、写真から北インドの空気感だけでも感じて頂けたらと思います。ここで書いているのはいわゆる「ヒマラヤ水晶」の採れるエリアの近隣。北インドの大地は、とても美しいです。
インドの旅はデリーから東周りでスタート。
途中、スリランカに寄ったりしながら西側を北上してゆき、北インドを旅していたのは旅も残り1ヶ月ほどのことでした。南から北上してきた私は一度デリーに戻ってから、愛すべきオンボロバスで9時間ほどをかけ、まずはシムラーという町へ向かいました。
シムラーは標高2000メートルほどの高地にある美しい避暑地の町で、インド映画「きっとうまくいく」のロケ地にもなっていた町です(ご興味ある方はぜひご覧になってみてください。ボリウッド版の青春映画でとても感動できる物語です。血が熱くなります)。
シムラーの町並みはエリアによっては全然インドっぽくなくて、イギリス領だった頃の面影をつよく感じるいわゆるコロニアルでお洒落な避暑地といった町でした。
私はインドの雑多極まりない、人口が大爆発しているカオスな人いきれがとても好きで、その匂いの中にいる時に不思議と安心していられます。どこにいてもインド人がすぐ声をかけてきてくれるので寂しくないですしね(たまにウンザリしますが。そしてインドはどこへ行っても日本で聞く一生分のクラクションを10分で味わえます)。
プリーという海辺の町でたまたま出会った子は「インドから日本へ帰ると、すごく寂しくなるんですよ」と言っていて、その時は「へぇ、そういうものかな」なんて他人事のように思っていたのですが、この言葉の意味はインドを旅していく内によくわかったものでした。
いつものぶらぶら散策。そういえばシムラーでも、たしか水晶が採れましたね。
雨宿りを口実に人でごった返しているバスターミナルでチャイを飲みながら過ごすように、旅先ではこういった何気ない時間が好きで、どこにでも腰を降ろしては人々の様子を見ていて、それが幸せでした。インド人はとにかく元気で人懐っこく、列車なんかでも隣に座ったりすると知らない人同士でもすぐ仲良くなっています。
泊まった安宿は主人も雰囲気もとてもいい宿でしたが冷水シャワーしか出ないので震えました。
シムラーにまず立ち寄ったのはスピティ谷と呼ばれるエリアに行きたかったからなのですが、そこからオンボロバスで10時間ほどかけて、まずはレコン・ピオという山の中にある町へ。
レコン・ピオへと向かう雄大な谷道は絶景の連続でしたが、「落ちたら死ぬな」という谷を大いにバスに揺られつつたまに宙に浮きながらガタゴト進むのでぜんぜん写真を撮れてません…が、本当に美しい谷の光景が連なっていました。
余談ですが、私が旅先で一番好きな時間はボロバスで移動している時なのかもな、と思います。
インドの人々と町の濃密な匂いと土埃にまみれながら窓の外を見ていると、何とも言えず「これでいいのだな」と落ち着けます。それは自分は今たしかにどこかへ向かっているという安心感の中でくつろげるからなのかも知れませんが、そういう時って不思議とインスピレーションも湧くものです。
レコン・ピオは本当に山の中にある小さな町といった雰囲気でしたが、とても好きな町でした。
安宿から見えた眺望。
ここスイス?という雪山感が溢れています。そして当然のように暖房がないので寒い。
北インドはチベット文化やチベットの人々が混合している地域も多いのですが、翌日ぶらぶらと散歩していた村もそのひとつで、とてものどかで美しい光景が広がっていました。
翌日、レコン・ピオから数時間かけてチットクルという谷の中にある小さな小さな村へ。
チットクルは辺境の地ですが、不思議と「ここへ行きたいな」と感じて回り道して立ち寄った場所でした。
ここでのことはよく覚えているのですが、本当~~に、何もない谷あいの村で。けれど素朴な木造家屋やゴツゴツした岩山、そしてのどかな、本当にのどかな美しい草原や谷が続くピースフルな場所でした。
牛やヤギなどが放牧されていて、もうおとぎの国感満載な訳ですが、油断していたらこのままフっと天に召されるのではないか天使が迎えにくるのではないかというほど平和な場所です。
また、チットクルは水晶産地のクル渓谷とはまた別の場所ですが、おそらくこのエリアでもクリスタルが採れるのだと思います。
夕方、谷の道をぶらぶらと歩いているといくつか石英質の石ころを見かけました。私は土地の神さまと石にお許しを得て、旅の思い出にひとつだけとてもこころ惹かれる石をポケットにしまいました。こういった旅先で思い出の石となるエピソードってよく耳にしますが、なかなか、いいものですよね。
バスルームのドアが低すぎて何度も激しくアタマをぶつけたのもいい思い出。
チットクルの夜はとても綺麗な月が浮かんでいました。
宿の可愛い男の子。チョウメンというチベット版のヤキソバをサーブしてくれました。
インドでは何度もお腹を壊していたのでしまいには1日1食でぜんぜん大丈夫になっていたのですが、北インドではほぼ毎日チョウメンを食べていたので正直飽きてしまった。。
しかしチットクルは標高が3500メートルほどでとにかく寒いので、宿の親父さんが「ウゥゥゥ~~~、さっっむ!」というように毛布を被ってガタガタいいながらフライパンを返していたのには笑いました(あんさんここに住んどるのに真冬は大丈夫なのかい)。
翌朝早くチットクルを後にして、一度レコン・ピオへ戻ってから今度はさらに北へ。
スピティ谷の手前にあるナコという山上の村で下車しました。
ナコは中心に湖のあるとても古い町並みを残す村で、こんなところに人が、と思えるような天空にあります。ナコもまた、時が止まったように美しい場所です。
言葉を尽くすよりもただただ美しい写真たち。
ナコでの宿は陽気な姉妹とお母さんが経営していて、彼女たちが作ってくれた暖かくて美味しいスープがチョウメン続きだった胃袋にえらく沁みました。
翌日、「ここほんとにバス来るの?」という山の上で2時間ぐらいバスを待って(安定のインド時間。もはやこんな辺境の地にちゃんとバスが来るということ自体がすごいです)、ようやくスピティ谷のカザという町へ。
カザの標高は3600メートル。数時間かけてカザの町が近づいてくるにつれて、空はどんどんインディゴに近い紺色になってゆき、周囲にのどかな光景が広がり始めます。カザはチベット仏教の町なので美しいゴンパ(僧院)がいくつかあり、チベッタンの方々も沢山暮らしていました。
カザも本当に美しい町で、こんな最果てのような辺境の地でも人々が元気よく営んでいるのは不思議な感覚でもあり、世界の広大さと、自分自身が生きてきた狭い世界を感じることでもありました。また、標高が高く空が真っ青なので、「宇宙に近い」という印象をうけます。
カザの山の上にある僧院。
そこからさらに登ったところ。私はこの場所がお気に入りで、何度か来ては何もせずにただぼーっと空や町や雲の様子を眺めていました。
カザでの食事。チベッタン式水餃子の「モモ」。スパイシーでないのでお腹を壊す心配もなく、北インドではチョウメンとモモばっかり食べてました。
カザでの宿。一階が食堂になっている素敵な宿で、おやじさんも親切でいい人。カザとは相性がいいみたいだ。
翌日、カザを起点にピン谷と呼ばれるエリアのムドという村へ。ここは国立公園に指定されているエリアでとにかく息を飲む大自然。
と言っても緑ではなく雪山と川がずっと続いているのですが、初めはガラガラだったバスも、夕方近くなると仕事を終えたチベッタンの人々が陽気に押しかけ、そこはもうスシ詰め状態を飛び越えてバスのシルエットをした群衆の塊のようになっていました…(それがまたいいのです)。
辿り着いたムドの村は人口300人いるだろうか?という程の辺境の小さな村で、辺りを雪山に囲まれた谷あいの場所でした。
ムドにいたのはとても短い間だったのですが、ここから、クリスタルの産地として有名なパールバティ渓谷へは西へ50㎞ほどと近く、もう少し西へ進むとマニカラン、そしてクルへと至ります。
この雄大な大自然の中でなら素晴らしいクリスタルがたくさんあるに違いなく、そしていまだに人々に発見されずに眠っている石たちも多くあるのだと思います。
石屋を生業にさせてもらっていると「石って何だろう」を改めて考えることがたまにありますが、彼らにとっては地中で眠っていた方がよいのか・それともある人々の元へ旅だった方がよいのか、考えることが。いずれにせよ、どんな時も石への敬意、自然への敬意を払うことが彼らに対するマナーだと思えますね。
ガックガクに凍えるようなムドの朝。村の人々とともにバスを待ちます。村の遠くに朝餉の支度の煙が煙突から上がっていて、とても素敵な光景でした。
北インドの旅はこれで半分ほどといったところですが、石の産地におおよそ関係するここまででおしまいです。クルやマニカランも、写真で見る限り同じような風景の大地という印象です。
本当はここから一度カザを経由してシムラーまで戻り、西側から更に北へ北へと移動していき、そこでもとても素晴らしい景色、体験があったので書きたいのですが、文字数限界につき断念(ここまでのこともかなり割愛してしまいました)。
写真でご覧頂けるように、年中暑いようなイメージのインドですが北部に行ってしまうと標高も上がりますし、山は雪を戴きます。
いわゆるヒマラヤンクリスタルの産地であるこれらの地域はとても美しい場所です。THE インドのイメージとは少しだけ表情が異なりますが(住んでいるのはしっかりTHEインド人です)、自然に囲まれた雄大なそこで私たちが手にする美しいクリスタルたちが産出しているようです。
インドは人々も町並みもカオスですが、ハマる人はハマってしまう、独特で、濃厚な魅力があります。一言で言ってしおまえば生きることや「生命力」を肌で感じる国だと思います。インドの神さまも素敵ですしね。
いつかまた北インドへ赴き、そして現地で直接石を見、お迎えできたらと思います。
織矢
※オマケ動画その①
私がこころから大好きなバラナシのプジャー(礼拝)。血が熱くなります。
②北インドのハリドワールの喧騒。インドの夜はまいにちお祭。
③ニューデリー、パハールガンジ。ある意味一番思い出深い町。