2021/02/21 10:24





四万十川の早朝にて。



【 Braceletの創作、賢治と銀河鉄道の夜 】


宮沢賢治も石が好きだったということを思い出したことから、大好きな「銀河鉄道の夜」をモチーフにブレスレットを編んでみようかとふと思い立ちました。

このブレスを創作するのはとてもスムーズで、使用する石のピースは思い立ってから数分ですべてが決まっていました。ですので、ほとんどインスピレーションでクリエイションされているこのBraceret。

テーマのひとつは「銀河鉄道の夜に身につけていたいブレス」ということですが、身につけたり、眺めたりすることである雰囲気やイメージからくる世界観、その空気感を感じて頂けたら嬉しいです。店主自身が銀河鉄道の夜をテーマにして創作したこともあり、やはりこのブレスはそういった空気感をもてているのでは、と思います。

銀河鉄道の夜はさまざまな方がオマージュを出している賢治の人気作品ですが、店主もこの物語がとても好きです。

と言いましても原作は小さな頃に読了したかどうか…というおぼろな記憶なのですが、個人的に杉井ギサブロー監督が描くアニメーションの世界の印象が、とてもとても強いのです。

ご覧になった方はわかるかと思いますが、あのアニメーション作品は「ほんとにこれ児童向け?」と思えるような、どこかアンニュイで怪しく、神秘的な雰囲気が全編を通して流れています。

ちょっと怖くもなるようなミステリアスな雰囲気ーーそれはここではないことを扱っているからかも知れませんがーーアニメーションは昼間のシーンでもどこか奇妙な暗さや匂いが漂っていて本当に独特です。個人的にはイギリス人や北欧の人が好みそうな空気感だなと思います。

そんな怪しくも美しい世界で主人公のジョバンニとカムパネルラの絆、冒険が各々の宇宙世界で描かれていくのですが(彼らは劇中では非常にかわいいネコくんとして描かれています)、あのアニメーションが素晴らしいのは映像とその世界観もですが、どこか「哀しいけれど美しい」という、ひねった感性でもあると思います。

ただの青春物語ではまったくない、ちょっとした退廃的な匂いや侘しさも漂いつつ、文学的で抒情性もあり、賢治の頭のなかは一体どうなってるんだろう?と思える物語(実際には賢治が描いた原作と今残っているものは違うそうですが)。




宮沢賢治の作品は時代やその背景も手伝ってか、とてもユニークに感じられます。また、どこかとても宇宙的。宇宙と仏教と曼荼羅と自然をミックスさせたような、一体どんな感性なのだろうというような、時に理解しがたいような世界はとても魅力的です。

そしてそれらが多くの人を惹き付けるのはやはり根底に流れている暖かさや温もりであろうと思えます。宮沢賢治は自然への畏敬や人々への慈愛を感じる人ですよね。

このブレスを創ろうと思った夜、不思議な夢を見ていました。
そこは宇宙空間のようにどこまでも暗闇の世界なのですが、そこにひとつの木造りの大きなテーブル、そして二脚の木椅子がありました。

手前に座っているとテーブルを挟んだ向かい側に男の人がひとり座っているのですが、その人は「少し高いところ」にいて顔が陰になって見えないのです。そしてある石の名前を二つほど呟いていました。これが賢治だったらと思うととてもロマンですね。

そんなこんなで、今回「とても面白そうだな」と感じて、彼のオマージュ作品(?)として「銀河鉄道の夜に」という名のブレスレットを編みました。

以下は使用している石をひとつひとつ解説したものですが、長々と一気に感じるままを述べているので、ご興味ない方はぜんぜん読み流してください(笑)

今回ワクワクする気持ちでこのブレスレットをスタートしましたが、シンプルに身につける方のお気に入りのひとつになれましたら幸いです。




【 イエローオパール(蛋白石) 】


「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう」

「ぼくわからない。けれども、誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸せなんだね」

ーー銀河鉄道の夜。ジョバンニとカムパネルラ


このブレスを創るにあたって、まず何か、核となる石がひとつ必要だなと感じました。

宮沢賢治が蛋白石、オパールが好きだったという記述を以前目にして、それではオマージュブレスだし、オパールを添えようとセレクトしたもの。本当は遊色効果のあるエチオピアンオパールをご用意していたのですが…穴に通らずそちらは断念致しました。

こちらはペルー産の最高品質のイエローオパール。唯一の10mm玉で中央に据えたこの石はひとつだけですが、このブレスレット全体のバランスをとってくれています。ある意味では求心力のような役割を果たしてくれているかも知れませんね。

アンバー(琥珀)も入っていることから銀河鉄道の夜をテーマとした時、全体の印象が明るくなりすぎやしないだろうかとも思っていたのですが、実際に製作してみると見事に嵌ってくれたように思います。

ブレスはやはり持ち手の方になにがしかの希望や前向きなフィーリングをもたらすものであった欲しかったので、もともとイエローのオパールは希少ですがこの石をセレクトしてよかったと思えました。

私の中では中心に座すこの石は銀河の中心や恒星、明るく輝くいつか還るべき場所、などを重ねてみました。ぎらぎらとした光でなく、オパールらしい淡く優し気に浮かんでいる黄の色はどこか懐かしく、また眺めていると安心感をもたらしてくれるものだと思います。




【 ラピスラズリ(瑠璃) 】


わたくしといふ現象は
過程された有機交流電流の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)

ーーー「春と修羅」


賢治のブレスを創るにあたってピースとなる石はすぐに決まったと書きましたが、このブレスレットには絶対にラピスラズリを入れようと思っていました。

銀河鉄道999のイメージなどもあるのかも知れませんが、私の中ではGalaxy Express(銀河鉄道)はブルーのイメージなのです。また、夜空というものを思い浮かべる時、それは時に真っ暗闇ではなくて不思議と濃紺ーー黒にとても近いような青を想起することがあり、ラピスのもっているロイヤルブルーはこの世界観にぴったりだと感じました。

賢治が描いた物語そのものは決してロイヤルなイメージではないと思いますが、「銀河鉄道」というものをイメージする時、やはりそこにはちょっとしたラグジュアリーな感覚、ロイヤルで特別で、普段は手にすることができないようなものを添えたいと思いました(銀河鉄道の切符のように)。

このブレス自体が「銀河鉄道の夜に身につけているブレス」というイメージでもあるので、そんなスペシャルな夜、自分が特別に感じられる夜に相応しいのはこのラピスだと思うのです。唯一6つ使用した石でもあり、普遍的に流れている銀河鉄道の世界観と青さをラピスは見事に添えてくれています。

またアニメーションではジョバンニ猫くんはブルーで描かれていますが、ルビーの赤、カムパネルラの赤と対比させて、それらそれぞれを表現したかったのでぴったりでした。




【 アンバー(琥珀) 】


「まって、あけて。ずっといっしょだって、言ったじゃないか」

ーーー銀河鉄道の夜。ジョバンニ


こちらも必ず入れようと思っていた石です。時折書いていますが、店主はアンバーという概念そのものがとても好きです。アンバーは厳密に言えば石ではなく樹液の化石ですが、その中に虫や植物などの不純物を取りこんでいて、それは何万年も、何億年も半永久的にそのままの姿で残ります。

ですから、琥珀というものはある種の永遠性を感じるものでもあり、生も死も、その内に目に見える形で閉じ込められたもののようで美しく感じます。

実はこの宮沢賢治のブレスレットを作成しようと思ったのはお店でアンバーをUPしたことがきっかけだったのですが、そちらのページにも書いていますが、そういえば宮沢賢治も石が好きで、琥珀を愛していたのだったと思い出し、なんとなくこのブレスの草案がパっと浮かんだのでした。

このブレスレットには4つのアンバーが編まれていますが、とても大きな輝きの存在感を放ってくれています。アンバーで表現したかったのはやはり永遠性で、それはジョバンニとカムパネルラが過ごしたとても短いけれど一生覚えているであろう青春の瞬き、そして実際にはもうこの世界に存在するものではなかったカムパネルラの永遠性や、絆、歓びと別れ、それらを閉じ込めた形ある記憶の実在のようなものでした(カッコよく書くなら)。

(ネタバレします)物語ではカムパネルラは星まつりの夜に実は川で死んでいて、最後に窓越しにジョバンニとカムパネルラが別れるシーンがあるのですが、アンバーは暗い石ではありませんが、どこかそういった別れの永遠性やその記憶にも似合います。

そういったことは哀しいけれど世界の理やドラマのようで、物語としては時にとても美しいものにも思えたり。そして死後の世界があるならそこでも、次の人生でも彼らは再会するんだろうと思える二人の絆が何より素敵です。

また、暗色系の色合いだけではやはり全体のトーンが暗くなってしまうので、明るい星々の光、宇宙に浮かぶ恒星の光や銀河鉄道の車窓から見えるそれらの輝きを表したかったのですが、アンバーの澄んだイエローはそれらをよく表現してくれていると思います。

何でもいいという訳ではなくやはり質のよいものをと思っていたので、今回希少なポーランドの琥珀を使用しましたが、とても美しく、上品で奥の深いこのイエローはとても素敵です。この色はどこか曖昧ではなく少しロイヤルな感覚があり、全体とよく調和してくれています。アンバーでは何しろ永遠性と宇宙の輝きを表したかったのです。




【 ルビー(紅玉) 】


「この砂はみんな水晶だ。なかでちいさな火がもえている」

ーーー銀河鉄道の夜、カムパネルラ


ギサブロー監督が描くアニメーションでは一貫してどこかアンニュイで妖しく、神秘的で不思議な時間と世界観が漂っていますが、このルビーの色はそれらの昏(くら)い雰囲気やそこにある美しさを見事に表してくれるのではと感じていました。

ルビーも石によって色がまちまちですが、こちらの最高品質ルビーの色はどこか高貴さや神秘性を感じる、品のある色でとてもマッチしてくれました。そしてこの石はある意味でブレスレット全体をグラウンディングしてくれていると思います。

劇中では蠍(さそり)の火の話が印象的に語られますが、ルビーの紅い火はその物語のイメージにもぴったりです。また、カムパネルラ猫くんの色はまさにこの色!と言いたいぐらいにピッタリ。

カムパネルラはとても知性と品性、どこか柔らかな高貴さも感じる人物ですが、このルビーはそんなカムパネルラとジョバンニブルーとの絆を表現したくてセレクトした石でもあります。

ルビーはもともともっているものがとても「深い」石であると思いますが、このブレスにそんな深みやある種の重厚感が出ているとしたら、それはルビーに依るところがとても大きいと思います。暖かな智慧、深い慈悲もこの石のもつカラーだと思います。




【 ゴールドシーンオブシディアン(黒曜石) 】


「この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるね」
「銀河ステーションで、もらったんだ。きみもらわなかったの」
「ああ、ぼく銀河ステーションをとおったろうか。いまぼくたちの居るところ、ここだろう」
「そうだ。おや、あの河原は月夜だろうか」
「月夜でないよ。銀河だからひかるんだ」
「ぼくはもう、すっかり天の野原にきた」

ーーー銀河鉄道の夜、ジョバンニとカムパネルラ


「銀河鉄道の夜」を題材にした時、一番初めに思い浮かんだのはたしかこの石だったと思います。銀河鉄道が走っているのは何と言っても宇宙なのですから、やはり黒い色、それも宇宙のように広がりと奥行のあるものを考えた時に浮かぶのは、やはりゴールドシーンオブシディアン。

この石は傾けると黒い石肌の内にサっと黄金色の光の粒子を広げてくれますが(これは黒曜石の中に閉じ込められた微細な気泡が原因だと云われています)、それがひとつの丸い宇宙の中に広がる銀河、明滅する星の光のようで、銀河鉄道の世界観によく似合うように思えました。

そのことを想う時、光というのは放射しているものではあるけどその中に入れるもののように思える「奥行き」を感じます。

球体というのはさまざまなシンボリックな意味を孕んでいますが、たとえばインド神話の「インドラの網」は真珠でできた網は実はそのひとつひとつがその他のすべての真珠を映しだしていて、つまりは「ひとつの中にすべてはあるのだ」という教えですが、ゴールデンシーンオブシディアンの玉というのはそんな多次元性を思い起せる光だと思います。

宇宙は物語に流れている普遍的なテーマと空気感なので本当は6つ使用しようと思っていたのですが…長尺過ぎてチェーンに入らなかったため断念しました。

ですが、この黒曜石は背景に流れているベーストーンとして鍵になるもので、ラピスのブルーもルビーのレッドも、アンバーのイエローもみんな黒曜石という暗闇が際立たせています。

光は生みだされるものですが暗闇というのはきっと始原の始まりから無として、ただいいもわるいもなく存在しているもので、それはある意味すべてのものの父親、母親のように暖かい。星を抱いている宇宙の闇のようなイメージで編みました。




【 全体として 】


「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至るために、いろいろのかなしみもみんなおぼしめしです」

ーーー銀河鉄道の夜、青年


流れるままにひとつひとつについて綴ってしまいましたが、何となくこのブレスをクリエイションする時に頭にあったのは、「銀河鉄道に乗車している時に身につけていそうなブレス」、またはそんな気分、雰囲気を感じられるものならよい、ということでした。

結果としてこれでいいと思えるものが完成したのですが、人さまから見てどのように映るかはわかりません。これはあくまで店主がイメージする「銀河鉄道の夜」なので、その像ーーーイメージはたくさんあると思いますし、けれど各々の銀河鉄道の中に入りこめたら、その中にいる、その世界を想い出せるようなものになれたらよいです。

全体としては品質の高いものを使用したこともありとても「ロイヤル」なもののように思います。このブレスに関してはどこかラグジュアリーでキリっとしたものにしたかったのです。その中でとても柔らかに優し気に光っているのはやはりイエローオパールですが、この石はひとつでこのブレスのバランスを図ってくれています。アンバーも同じくです。

石に「ある響き」があると考えた時、このブレスレットにひとつとして働いているキーは「この物語の主役はあなた」ということだと思います。

言い換えれば人生の主眼は自分自身だということですが、これはテーマが童話だからということでなく、石たちの並びとしても。

とはいえ、作った人間と致しましてはこのブレスを身に付けることで、シンプルに何か素敵な気分を味わってもらえたらそれで本望です。

消費されるものでなく、「今日はこの気分だな」、という時にお気軽に、また末永くお付き合い頂けましたら嬉しいです。




※付記。
宮沢賢治は没後50年を過ぎているので作品などの著作権はフリーになっています。たとえばその名を冠したものや世界観から発想を得たものを販売するのも原則的に問題ないようです。が、こういったことに大切なのはもちろん賢治本人への畏敬やリスペクトをこめることであり、尊敬の念とともに今回作品をご紹介いたします。