2021/01/17 14:01
(つづき)
翌日、「スィーワでまだ見ぬ石を探す」ということに情熱を燃やし、午前早くから再び自転車をレンタルして走り出しました。
今度はファンタジーアイランド経由ではなく、アムン神殿のある東を経由して探検するプランを立てました。アムン神殿のある高台からいくつか小高い岩山が見えており、そこに何か面白いものがあるのではないかと思ったのです。
時おり表れる鉱泉の周りには店が並び、エジプト観光客が気持ちよさそうに泳いでいます。
適当そうな岩山を目指して走っている間も、スィーワは絶景の連続です。
東に続いている塩湖に架けられた道。湖の波打ち際には不思議とヤギや牛などなのか、動物の骨がたくさん転がっていました。
えっちらほっちら自転車を漕いでおくと、小高い岩山に到着しました。
そこはカスル(打ち捨てられた泥造りの古代の旧市街)になっているようでしたが、村というより砦や王宮跡のような姿でした。周りには何件かの民家もありましたが、ほとんど人は見かけず、非常に静かな場所でした。
そびえる岩山の上には何があるだろうとワクワクした心持で歩き始めると、すぐに斜面にきらきら光るものがあり、近づいてみるとなんと早くも石たちを発見してしまいました。
このように成分不明ですが種々なガラス質やモコモコな石たちが無数に転がっていました。ただ、急斜面に落ちているので観察すのにも手足がプルプルしましたが、とてもエキサイティングな体験でした。
これはまだまだ、面白いものが眠っていそうだと思いさらに岩山をよじ登るように頂上を目指します。
結局その岩場で発見できた石はそれきりだったのですが、他にも面白い岩石や細かな石たちは至るところにありました。そして頂上から見えた絶景は素晴らしいものでした。
よくここまで登ってきたものだと我ながら感心しつつ、買ってきたターメイヤサンドを頬張っていると、スィーワの町から(おそらく)アザーンが流れてきました。
アザーンはイスラムのお祈りで、一日の決まった時間に何度かスピーカーから大音量で流れるのですが、私はインドにいる頃からこのアザーンがとても好きでした。無宗教ですが、自分が異国の遠い場所にいることを実感できるようで、アザーンを聴くとワクワクした気分になります(ただ、スピーカーに近い宿だと朝早い寝ている時間に流れてきて極限まで迷惑です)。
(頂上で一休みしている途中に現れた野性のフェネック。フェネックはなかなか見れないようなのでラッキーな出会いでした)
その岩山からは周囲の遠くまでが見渡せたので、何となく石の匂いがしそうなポイントに目星をつけていたのですが、向かったのはやはり昨日の砂漠でした。遠くに見えていた砂漠の上の岩山に、何かありそうな気がしたのです。
そこから随分と自転車を漕いで砂漠へと向かったのですが、砂漠ロードに着いたあたりで突然チェーンが外れてしまいました。でもこんなことは充分に想定済みです。そもそも海外のレンタサイクルがボロくない訳ないのです。チェーンが外れたのなら、また付ければいいのです。
私は手をオイルまみれにしながらアラヨっと極めて手際よくチェーンをはめ込んで、颯爽と再出発しました。そして30秒後、見事に再びチェーンは外れました。
砂漠のただ中でそんなことを何度も繰り返している内にようやく悟りました。この自転車はもう、すでに逝っている…。帰りのことを考えると頭を抱えますが、ひとまず昨日のポイント近くまではなんとかもってくれたので、同じ場所に自転車を止め、再び砂漠の上を歩きだします。
昨日はただただぶらぶらと歩いていましたが、今回はずっと向こうに見えるーー距離感覚がつかめないのでどれほど距離があるのかもわかりませんでしたがーー岩山を目印に向かって歩きだします。
岩山は平坦なら問題なく見えるのですが、砂の斜面や盛り上がった場所にさしかかるとまったく見えなくなりました。周りには誰もおらず、聴こえてくるのは風の音だけ、視界に入るのは砂と空だけ。アドベンチャー感満載です。
途中、よさそうなポイントで休みながら、どれだけ歩いたでしょうか。ある砂の斜面にやはりキラキラと光るものを認めて近づくと、そこにも、やはり昨日見かけたのと同じようなガラス質の石たちが無数に砂の中に見え隠れしていました(この瞬間の度に宝の山を見つけたトレジャーハンター気分でした)。
それは誰にも見向かれることもなく、砂漠のただ中の急な砂の斜面になかば埋もれて眠っていましたが、きっとエジプトにはまだまだ、このようにまだ見ぬ石たちが砂の下に眠っているのでしょう。それを想うとロマンを感じますし、それと出会えるかどうか?は石の導きと運だと思えます。
そのポイントで満足いくまで遊んだ後、再びだんだんと近くなってきた岩山へ向かいます。
ところで、カルサイトやセレナイトはもともと海水など水があった場所にしか育ちませんが、この砂漠でもそれを裏付けるように沢山の古代の貝殻たちを見かけました。もともとは海底の岩礁だったのでしょう。貝の跡を打ち付けた岩場なども。
そんなものを目にしつつ、ようやく、目的としていた岩場に到着しました。
辿り着いたそこは砂漠の中に突如として佇む立派な岩山で、何とかよじ登り、その頂上へ降り立ちました。頂上は先端が先の方へ延びていて、何となくライオンキングに出てくる「プライドロック」を彷彿としたのですが、そこから見えた眺めもまた素晴らしいものでした。
結局アテにしていたような石はそこには見られなかったのですが、充分に冒険したのでこのエンディングに満足していました。見てみるとそう遠くない距離にいくつかの岩山があったので、もしかしたら、そこには素晴らしい石が眠っていたのかも知れませんが、流石に歩き通しでそこまで行こうという気力はありませんでした。
スィーワでの壮大なクリスタルアドベンチャーはここで終わり、今刻んできた自分の足跡を辿って辿って、ひたすら砂漠の上を帰途につきました。
問題は自転車のチェーンでしたがどうにもこうにもできませんでしたので、ヒッチハイクするとなんとか砂岩を運搬している青いトラックに乗った優しいお兄さんが載せてくれました。やれやれでしたが、最後は人の優しさに救われました。
「じゃあね」と言ってトラックに乗りこみ、深い西日の射す道を砂埃を巻き上げて去っていく後ろ姿がとてもカッコよく見えました。スィーワはよそものノーサンキューなこともあり余り人との縁を感じませんでしたが、結局最後にはこうして優しい人に助けてもらったのでした。
私はとても満たされた気分でスィーワの町に帰ってきて、そこでの最後の夜を過ごしました。
スィーワには3日の間いましたが、どの日もとても満たされていて、そしてエキサイティングでした。エジプトのクリスタルジャーニーの最後を飾るのに相応しい、壮大な砂漠の旅をできてとてもラッキーです。それは多分ずっと一生忘れないだろうなという体験でもあり。
エジプトの旅自体はあと数日残っていて、けれどもう石とはほとんど関係ないのですが、折角なので次回を最後に簡単に記しておきたいと思います。
スィーワを抜けて北上し、今度は地中海の港町マルサ・マトゥルーフや、アレキサンドリア図書館のあるアレキサンドリアを経ていよいよカイロに戻ります。
~「再びのカイロ~帰国、虹石屋の始まり篇」につづく。