2021/01/17 14:01




(つづき)

ダフラを後にして次に向かったのはファラフラという砂漠の町でした。


延々と続く砂漠ロードを6時間ほどバスに揺られていると、遠くにファラフラの小さな小さな町が見えてきました。




ファラフラの周りは広大な砂漠と荒野、古い町の残る丘とヤシの木しかありませんが、どことなく「スタンドバイミー」に出てくるオレゴンの古い町並みに似ていて、バスを降り立った瞬間から「ここは好きな町だな」と感じました。




一通り砂漠の町を巡るつもりだったのですが、ファラフラに来たのには(珍しく)明確な目的があり、それは黒砂漠、白砂漠、そして「クリスタルマウンテン」と呼ばれる場所へ行くことでした。




黒砂漠は天然のピラミッドのような黒い丘がたくさん広がっている砂漠で、白砂漠は石灰によって白くなった砂漠。そしてクリスタルマウンテンはその名の通り、なんとクリスタルがゴロゴロと生えている砂漠の岩山地帯なのです。世界はロマンに溢れています。


ひとまずあちこち尋ねて歩いて、それらのツアーを用意しているコテージのような宿へ辿り着きました。

「哀川翔をエジプト人にしたらきっとこんな風だな」という、半透明のサングラスをかけたオーナーのおじさんに旅人のワザを使ってツアー代金と宿泊費を値下げしてもらうことに成功。
(途中で「なんやワレなめとんのか」と言い出しそうな顔立ちをされてましたが意外とナイスガイです)




が、本当はすべて回って夜はそのまま砂漠に泊まるコースを予定していたのですが、予算の関係で黒砂漠と砂漠の野宿は断念しました。以前、インドのジャイサルメールという砂漠で見た満点の星と天の川が忘れられず、それ以来どこかの砂漠でまた見たいと思っていたのですが。

(アスワンで出会った日本の方によると「あの星空は本当にスゴイですよ…まるで星がゴミみたいに空一面に広がってるんです…」とのことでした。ゴミって)






ファラフラで泊まったこのコテージはエジプト旅の中でも一番心地よいものでした。

部屋も広いし天井は高い、部屋の照明は豆電球を含めて故障することもなくすべて点く、シャワーの勢いもいいしホットのタンクも充分にある、ブランケットも充分にある上まさかのバスタオルと石鹸まで完備、緑のある中庭もあるし何より居心地がいい。これまでボロ宿ばかりに泊まってきた身からした天国のような場所でした。


ひとまずツアーを翌日に控え、ファラフラの町を散策しました。

書いているととめどなく長くなってしまいますが、3日間滞在したファラフラの町とその周辺は本当に素晴らしい場所で、とても好きになれた町でした。

人々も人懐っこくて優しく、景色は美しく、思い出のたくさんある町です。







ところで、ファラフラは町の外へ少し歩くとすぐに砂漠や荒野に出るのですが、その大地には不思議な石がいくつも落ちていました。コンドライトに似た隕石のような黒い石や石英質のものもあり、世界にはきっとまだまだ、人間に発見されていない石や鉱脈、スポットが存在するのだろうな、と余りに広い砂漠を前にひしと感じました。


そして翌朝。


待ち合わせの時間に朝日の眩しい中庭で待っていると、一人の青年がぶらぶらとやって来て、ポツリと言い放ちました。

「おまたせ、じゃ行こっか」

彼の名はワリード、シャイな24歳、彼女あり。今日のツアーのドライバーを務めてくれる青年でした。


ワリードはとてもシャイで口数も少ないのですが、一日一緒にいて、帰る頃にはなんとなくお互い絆を感じて、「俺たちこれで友達になれたよな」という雰囲気がありました。

ワリードの運転で4WDを飛ばして、まずはクリスタルマウンテンへGOです。




意気揚々と向かったのですが連日の移動でくたびれていたのか、発車10分ぐらいでワリードの方へすさまじく傾きながら爆睡。気が付いたらクリスタルマウンテンの近くまで来てしまっていました。




辿り着いた場所は砂漠と荒野のど真ん中で、そこにいくつもの高い岩山や、丘のようなものが続いています。

そして、そこには確かにたくさんのクリスタルが至るところに群生していました。







砂漠の上にクリスタルだなんて、なんともロマンをかき立てられます。

これは石好きにはたまらない。ということで、2時間ほどそのクリスタルマウンテンと呼ばれる一帯をほっつき歩いたり、岩山をよじ登ったりして探検していました(その間ワリードはひたすら車内で待ってくれていました)。






もう充分遊んだな、というところで次の白砂漠へ。




(途中、ヤシの葉を屋根にしたオアシスでの休憩。美味しいランチをサーブしてくれたワリードはなぜか正座しながらご飯とポテトチップスを交互につまむという、アバンギャルドな食べ方をしていました)


クリスタルマウンテンは砂漠ロードのすぐ横から入ることができましたが、白砂漠は奥まっているらしくコンクリートが舗装されていません。道を折れるとひたすらゴツゴツとした岩地を蛇行しながら向こう側に向かって進んでいきます。




ドライブセンスが必要な険しい道でしたが、時おり砂漠の斜面で超スピードを出して楽しませてくれるカッチョよいワリード。ほどなく走っていくと、じょじょに雪を被ったように白くなってそびえている奇岩が目立つようになり、やがてそこは本当に別の惑星のような光景になっていました。



白砂漠があった場所はかつて海で、そこに残った石灰質によって砂漠に向き出した岩や地面が白くなっているようです。

ここで見ていた光景と感じていたものはとても神々しいもので、その誰もいない白い砂漠の中をひたすら気の向くままに歩いていくのは素晴らしい体験でした。



以前、西インドで「ホワイトデザート」と呼ばれる塩の砂漠に行ったことがあったのですが、そことはまた異なる魅力がありました。

(乾季の時期だけ地平線まで塩の光景が見られます。馬車に乗ってぶらぶらして帰ってきた後、ドライバーのおじさんに「いいか織矢、ここの塩は絶対に舐めるな。ケミカルで非常に危険だ。いやまさかその顔はお前すでに……。今のは忘れてくれ。全部な。【多分】、大丈夫だ」と言われて「いやそれ先に言ってよね」と思いました。因果関係は不明ですが翌日漏れなくお腹を壊しました)







エジプトで何度か砂漠を歩いてわかったのですが、人間、空と砂しかない大地を歩いていると次第にここりが静かになります。

思考のお喋りが止み、ただ静かにその光景の中に存在して、歩いていく体験。砂漠は(死の恐怖を感じない限り)人を瞑想状態へ導くものなのかも知れません。









夕暮れに近い白砂漠でそんな時間を過ごしていると宿へ帰る時間が迫ったようで、ワリードの四駆が迎えに来てくれました。

白砂漠からの帰り、車窓から見えた夕暮れの砂漠の景色はとても素晴らしいもので、満たされた気持ちで帰途につきました。何と言ってもワリードのお陰でこの一日の時を過ごすことができ、彼といたのは短い間でしたが友情と感謝を感じていました。

最初は全然喋らなかった彼ですが、翌日街を歩いていると通りの向こうから名を呼んでくれたりして嬉しかったです。



翌日もずっと向こうにあるらしい町へ行ってみようと思い、ぶらぶら歩いていると近くを通ったバイクやサイドカーに乗せてもらったりして、隣町へと足を延ばせました。

そこは町というより村といった場所でしたが、見える景色は本当に素晴らしく、のどかで、平和で、とても美しいところでした。










観光客なんてまず来ないであろうその村でも色んな人が声をかけてくれたり、シャーイをご馳走してくれたりと、私はこの何もない町がとても好きになりました。何と言ってもとてものどかで美しい町なのです。
















素敵な時間を過ごした後の夕時、帰りのことなんて考えていなかったのでヒッチハイクでファラフラまで帰ることにしたのですが、連れ添っていた子どもたちがチャレンジするもなかなか止まりません。

ここはヒッチで台湾と日本を巡った私の出番かなと思い親指を立てると一発で止まり、流石に少しばかり自画自賛しました(ヒッチハイクにはコツがあるのです)。

夕暮れ時の車窓から見える景色は素晴らしいもので、ただただ、満たされた時を過ごすことができました。





そのまま宿に帰って一休みするかと思いきや、裏手にある荒野の向こうの山へ行ってみようと急に思い立ち、エアーズロックと呼んでいた小山まで探検することにしました。


なんとか崖をよじ登って辿り着いた頂上からの眺めはとても素晴らしいもので、しばし黄昏てしまう。



下で野犬たちが威勢よくワンワン元気に凶暴に吠えてるけど流石にここまで登ってこれないだろうと大いにタカをくくっていたら普通に登ってきたので焦りました(狂犬病の注射打ってない…)。

帰りは犬たちに気づかれないようコソコソと裏から山をよじ下り、周り道して無事に宿へ戻り、ファラフラでの最後の晩餐(しなびたターメイヤサンド)とシャーイを楽しみました。


私はその町をよほど気に入るか必要を感じない限り3泊もしないのですが(大抵は1泊か2泊)、ファラフラはとても好きになれた町の一つで、結局3日の間そこにいました。

あの、現代社会からはかけ離れているような砂漠の村はずれでは、今ものどかな時間が流れてそこに住む人々がいるんだろうと思うとなんだか不思議な感覚になります。本当に時が止まったような場所でした。




翌朝、荷物を詰め込み次の町、バハレイヤへ向かうバスに乗り込みました。



~「Crystal Journey⑤ バハレイヤ~カイロ~スィーワ、砂漠の石篇」につづく~