2020/08/22 15:30










翡翠はいわずと知れた鉱物ですが、今日はこのヒスイについてつらつらと綴ってみたいと思います。
「雨の似合う石」としてよくご紹介していますが(もちろん晴れも似合うのですが)、翡翠は独特の静けさと深みをもった石。
悲しいときや傷に寄り添ってくれるようなやさしい印象があり、個人的にも好きな石なのですよね。
ヒスイと呼ばれる石は実は2種類ありますが、そのどちらも似たような見た目をしているので、総称して「ヒスイ」と呼ばれています。
1つめは「硬玉」と呼ばれるヒスイ輝石。一般的に「ジェダイト」と呼ばれる翡翠はこちらになります。
その名の通りより硬度が高く色彩豊かでもあるので、こちらの方が宝飾品としては価値のあるものとされています。
2つめは「軟玉」と呼ばれるもの。
こちらは鉱物学的にはネフライトで、ジェイドとも呼ばれています。
同じヒスイでも、この2つの鉱物は成分がまったく異なる別鉱物なのだそう。
もともと、翡翠は岩石帯から産出されるので蛇紋岩やアクチノライトなど、さまざまな鉱物が合わさった岩から切り取るのですが、その中で翡翠輝石やネフライトが一定以上含まれた部分がヒスイと呼ばれています。
個人的には翡翠といえば中国の翡翠でできた杯や壺、装飾品などがイメージされて、古代の中国と関連付けてしまうのですが、実は中国で産出されるのは軟玉のみで、硬玉の方は採れません。
その後、中国に入ってきたジェダイトはミャンマーから運ばれたものだといわれています。
店主がヒスイを好きな理由のひとつは中国やミャンマーを想起することができるからなのですが、特に昔の中国ではとっても珍重されていました。
もともと「翡翠」という言葉は中国の言葉でカワセミを意味するのだそうですが、これはヒスイの色彩が美しいカワセミの羽のようだということから名づけられたそうです。
古くからさまざまな文化で人類と長い付き合いを経てきたヒスイですが、中国では「玉(ぎょく)」と呼ばれていて、古くは王の象徴だったそう。
不老不死や生命の再生をもたらすちからがあるものとも信じられていたようで、秦の始皇帝の遺体もヒスイで覆われていました。
マヤ文明の有名な遺跡であるパレンケでも、発掘されたパカル王の遺体には翡翠の仮面が被されていましたが、宝飾品としての美しさだけでなく世界の他の場所でも呪術的・魔術的・祭祀的な役割を果たしていたようです。または富や長寿、多産やお守りとして。
特にパカルの「翡翠の仮面」は有名なものですが、店主は昔からあの仮面になぜかこころ惹かれてしまって、「ゾっとするほど美しい」という言葉がありますが、どこか特別で、触れてはならないような崇高さがありますよね。
そういったことからも、何か翡翠は人間にとって特別に絆深い石のひとつであるのかも知れません。
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また、忘れてはいけないのは日本の国産翡翠。
実は世界最古の翡翠は日本から出土した縄文時代のものといわれています。
糸魚川産の翡翠は非常に有名ですが、上のフォトはヒスイが取れる糸魚川渓谷、たしか小滝川のもの。
以前ヒッチハイクと野宿で日本を一周していた時があったのですが、その時にどうしても行きたくなって向かったときのもの。
運悪く崖が崩れて道が塞がれてしまっていたのですが、不思議なご縁で手前の渓谷へ続く場所でテントを張らせてもらえることに。
誰もいない、地元の人しかいけないような美しい穴場の川べりで、裸足でこの渓谷を歩いた時はとても爽快でした。そしてヒスイ質の岩がゴロゴロしていました。そして川から上がると向こう側にちょうど大きな虹が出ていました。
糸魚川のヒスイには、古事記にも登場する翡翠の女神「奴奈川姫(ぬなかわひめ)」の伝承もあるように、出雲も交えたとっても壮大でロマンな物語があります。奴奈川姫も、古代の福井~新潟あたりを治めていた、不思議な翡翠の装飾品を身にまとっていたという実在の女性がモデルなのでは?という話もあるそうです。
深緑のイメージが強いヒスイですが、カラーバリエーションはさまざま。
緑、紫(ラベンダー翡翠と呼ばれています)、赤、黄、青、黒、白など、もともと翡翠は無色透明なのですが、長い年月を経て周囲の環境からさまざまな成分を取りこみ成長することで豊かな色合いを生むようです。
それゆえ「なんでも来なさい」という感じで、とても包容力のある「寛容な石」ということも言えそうですが、逆にいうと外部から何の影響もうけない無色透明なものはとても珍しいようです。
ヒスイのもっている響きはとても静かで、とても深いもの。
それはぐいぐいと主張してくるようなものではなく、落ち込んでいる時や悲しみに暮れている時も、ただその痛みに寄りそい結果的に痛みを吸収してくれるような、とても献身的で懐の広い石、なのではないかと。
雨や静かな夜が似合うのはそのせいでしょうか?
深みへ潜っていけるような、そんな包容力をもった石ですよね。
個人的にはヒスイはそんな静かでたしかな癒しの石です。
虹石屋 店主
織矢